1. 今日の相談
「補助金の申請をすることになったんです。でも申請書の『事業の概要』とか『取組の内容』みたいな欄が、どう書いたらいいか分からなくて……記入欄は小さいのに、もう三日も白いままです」
やってきたことはあっても、「事業の強みを簡潔に記載してください」と言われると、どの事実をどの欄へ置けばよいか迷います。
ただし、申請書は読みやすい文章を作るだけの仕事ではありません。制度ごとに対象者・対象経費・期間・必要書類・審査項目が異なり、公募要領や申請様式も更新されます。今日は、空欄を急いで埋めるのではなく、公募要領・申請様式・根拠資料・未確認事項を分けてから下書きします。
2. 大丈夫です
ほー先輩:大丈夫やで。止まったんは、何を書けば通るか分からんからやなくて、要領と手元の事実がまだ同じ机に並んでへんからかもしれん。まず分けて置こな。
AIが文章を整えても、対象要件を満たすか、経費が認められるか、採択されるかは決められません。申請者の頭の中だけでなく、見積書・帳簿・契約書・仕様書などの根拠資料へ戻る必要もあります。
AIを使うなら、実際の申請情報を渡すのではなく、架空の条件で「どの欄を、どの根拠で埋めるか」という型を作るところまでにします。
3. 今日使うAI・道具
先に用意するものは次の4つです。
- 申請する制度の公式サイトと、現在の公募要領
- 最新の申請様式・記入要領
- 見積書・帳簿・仕様書など、記載内容を裏づける資料
- 制度の事務局、社内責任者、支援機関などの確認先
中小企業庁の補助金の公募・採択でも、制度ごとに公募要領と申請期間が案内されています。検索結果や過去の様式ではなく、申請する回の公式資料を確認します。
ChatGPTを使う場合は、職場の利用規程と制度側の注意事項を確認します。実在の申請者名、取引先、口座、見積書、非公開の売上・原価・契約条件などは入力しません。
4. 実際にやってみる
順番にいきましょか。
ステップ1:制度と申請回を特定する
制度名だけでなく、公募回・対象枠・締切・公式URLを記録します。同じ名称でも回ごとに要件や様式が変わるためです。対象可否が分からない項目は、AIへ聞いて確定せず、事務局や支援機関への確認事項にします。
ステップ2:申請欄と根拠資料を対応させる
申請様式の欄ごとに、何を聞かれているか、文字数、根拠にする資料、確認する人を表へ並べます。資料がない内容は、もっともらしい文章で埋めず「根拠資料なし」「要確認」と残します。
ステップ3:架空の条件で整理の型を作る
次の架空の事業メモを、申請書を準備するための確認表にしてください。 「申請欄」「書ける事実」「根拠資料」「未確認事項」「確認先」に分けてください。 採択可能性、対象要件、経費区分、金額、実績、効果は判断・推測しないでください。 メモにない現在の運用、問題、成果、因果関係を付け足さないでください。
【架空の練習メモ】 (実在の申請者・取引先・金額・契約・未公開情報を含めずに書く)
ステップ4:実際の内容はAIの外で記入する
AIが作ったのは確認欄の型です。AIの画面を閉じ、公式の申請様式と根拠資料を見ながら、実際の内容を人が記入します。
ステップ5:提出権限のある人が照合する
公募要領の版、対象枠、期限、字数、添付資料、数字、事実を照合します。制度の事務局や専門家へ確認した内容は、回答日と確認先も残します。
ほー先輩:AIの文章はきれいやけど、提出するんはあなたの名前や。最後の照合だけは、ゆっくりやってな。
5. 完成例
実際にやってみると、こんなふうに変わります。(架空の事業の例です)
架空の事業メモ
うちは小さい弁当屋。お客さんは近所の工場の人が多い。
最近、注文方法の見直しを検討している。
新しい受注管理とレジの導入を考えているが、現状の件数・ミス・費用・期待効果はまだ資料で確認していない。
AIが整理した確認表の例
【申請欄】事業の概要
書ける事実:弁当の製造・販売を行っている
根拠資料:営業許可・事業案内・帳簿(実在資料を要確認)
未確認事項:主な顧客層、販売数、売上構成
【申請欄】現状の課題
書ける事実:注文方法の見直しを検討している
根拠資料:現在の受付手順、注文記録、ミス記録(有無を要確認)
未確認事項:現行の受付方法、発生件数、原因
【申請欄】取組内容・効果
書ける事実:受注管理とレジの導入を検討している
根拠資料:見積書、仕様書、導入計画(有無を要確認)
未確認事項:対象経費か、導入時期、効果の算定根拠
元のメモにない「電話受注」「聞き間違い」「業務効率の向上」は作らず、確認事項として残っています。ここから公募要領と実在資料を照らし、裏づけられた内容だけを申請書へ移します。
申請欄別の書き方の例(そのまま使えます)
[ ] の中には、根拠資料で確かめた事実だけを入れてください。申請書は作文ではなく、確かめられることを並べる書類です。
① 事業の概要
[事業名]は、[誰に][何を]提供しています。
[開業年]より[所在地]で営業しており、[規模:従業員数・店舗数など]です。
(根拠:[営業許可/登記/確定申告書 など])
② 現状の課題
現在、[業務名]は[今のやり方]で行っています。
そのため、[観察できる問題]が[頻度・件数]発生しています。
(根拠:[記録名]/[期間]の実績)
課題は「数えられる形」で書きます。「大変です」ではなく「月◯件」「1件あたり◯分」です。
③ 取り組む内容
[導入するもの・実施すること]により、[今のやり方]を[新しいやり方]へ変更します。
【実施時期】[日付]〜[日付]
【対象経費】[品目]:[金額]([見積書の日付・発行元])
④ 期待される効果
[取り組み]により、[課題]の[何]が[どう変わる]見込みです。
【算定の考え方】
現状:[数値]([根拠])
見込み:[数値]([算定の根拠])
※効果は見込みであり、実績値ではありません
「業務効率が向上します」は書かない。何がどれだけ変わるかを、根拠つきで書きます。根拠が出せないなら、書ける範囲まで下げます。
⑤ 実施体制
【責任者】[役職]([担当する範囲])
【実施担当】[役職・人数]
【外部の協力】[事業者名/なし]([役割])
⑥ 提出前の自己点検
□ 公募要領の対象者・対象経費に当てはまっているか([要領のページ]で確認)
□ 記入した数字が、すべて根拠資料と一致しているか
□ 見積書の日付・宛名・有効期限が要件を満たしているか
□ 添付書類が要領の一覧とそろっているか
□ 提出期限と提出方法(郵送・電子)を確認したか
□ 「要確認」が本文に残っていないか
この点検表を最後に必ず通します。書き上げた達成感で、添付漏れや期限を見落とすのが最も多い失敗です。
補助金・助成金の申請で気をつけたいこと
- 効果を盛る— 実績報告で同じ数字を求められます。書いたことは後で証明が必要です
- 根拠資料のない数字— 「約◯割改善」は、出どころを聞かれて答えられなければ書きません
- 公募要領を読まずに書き始める— 対象者・対象経費・期限は要領が正本です。要約や他人の解説で判断しません
- AIに事業内容を作らせる— AIは実在しない課題や効果を書きます。事実は手元の資料からだけ拾います
- 交付決定前に発注する— 多くの制度で対象外になります。発注のタイミングは要領で必ず確認します
- 提出したら終わり— 実績報告・証拠書類の保管まで続きます。保管期間も要領に書かれています
- 分からないまま出す— 制度の窓口や商工会議所、専門家に聞くのが早道です。聞くのは無料のことが多いです
6. 提出前の確認
補助金・助成金の書類では、読みやすい文章より先に、申請する回の公募要領と申請様式に合っているかが大切です。AIには架空例で確認欄の型だけを頼み、実績・売上・人数・効果など、根拠資料にない数字や事実を足させません。
下書き後は、申請項目ごとに公式資料と照合し、根拠資料がある内容だけを残します。判断できない箇所は「要確認」とし、制度の対象可否・対象経費・採択可能性・法的判断をAIだけで決めないでください。提出前は、制度が指定する窓口や権限のある担当者へ確認します。
7. 今日できたこと
今日できたことを、言葉にしておきますね。
- 公募要領・申請様式・根拠資料・未確認事項を分けられた。
- AIには実際の申請情報を渡さず、架空例で確認欄の型を作れた。
- 元資料にない問題や効果を作らず、確認先を残せた。
8. ほー先輩の一言
ほー先輩:うまい文章より、根拠があることのほうが大事やで。書けへん欄は急いで埋めず、「何を誰に確かめるか」まで書けたら前進や。
やさしいAI仕事術