1. 今日の相談
「会議の議事録係になると、メモを取るのに必死で、話し合いに参加できないんです。録音して、文字起こしのアプリを使えば楽になるのは分かってるんですけど……そもそも、会議を勝手に録音していいんでしょうか? 録った音声がどこに保存されるのかも分からないし、何を確認してから始めればいいのか、それが分からなくて踏み出せません」
とてもよく聞く相談です。そして、この「踏み出せない」感覚は、正しいんです。録音と文字起こしは便利な道具ですが、文章のAIとは、ひとつ大きな違いがあります。
録音データは、人の声そのもの。テキストなら「Aさん」に置き換えてから渡せますが、声は置き換えができません。だから、使い始める前の準備が、いつもより一段だいじになります。今日はその準備から、順番にいきます。
2. 大丈夫です
ほー先輩:大丈夫やで。踏み出せへんかったんは、あなたの感覚がちゃんとしてる証拠や。録音はな、ボタンを押す前が本番。「同意」「職場の承認」「消すルール」。この3つを先にそろえたら、録音は怖い道具やのうて、みんなを守る道具になるんや。
そうなんです。今日そろえるのは3つだけ。
- 参加者の同意——録音することを、会議の前にみんなに伝えて、OKをもらう(無断録音は、しない)
- 職場の承認——どのサービスを、どの会議で使ってよいか、職場として決めてもらう
- 録音データの管理ルール——どこに保存して、いつ消すかを、先に決めておく
ひとつ、この記事の大事な線引きを。今日扱うのは、職場内の一般的な業務会議(参加者の同意と職場の承認、データ管理のルールがあるもの)だけです。ケース会議・支援記録に関わる会議・ヒヤリハットの検討・保護者との面談・外部との会議・個別の相談場面は、この記事では扱いません。個人情報やセンシティブな話が中心になる場面の録音は、もっと慎重な判断が必要です。必ず職場と相談してください。
3. 今日使うAI・道具
- Notta(AI文字起こしサービス) … 会議の録音を、自動で文字にしてくれるサービスです。無料プランもありますが、1回の文字起こしは3分まで(2026年7月時点)。会議で使うなら、時間の上限と料金プランの確認が必要です。そして、職場で使うなら、職場が承認したアカウントで。個人アカウントに仕事の会議を入れるのは、承認が出てからにしましょう。
4. 実際にやってみる
順番にいきましょか。今日は「準備」が本編です。
ステップ1:職場の承認と、参加者の同意をとる
まず職場に、この3点を確認します。
- この会議で、録音・文字起こしを使ってよいか
- 使うサービスとアカウントは何か(職場として承認されたもの)
- 録音データと文字起こしは、どこに保存して、いつ消すか
承認が出たら、会議の冒頭に、次のことを伝えて同意を確認します。
- 何のために録るか(記録づくりのため)
- 録音は外部の文字起こしサービス(クラウド)に送って文字にすること
- 文字起こしを誰が見るか(例:記録係と責任者だけ)
- いつ消すか(例:記録が完成したら、音声も文字データも削除)
- そして、録音を断っても、何も不利益がないこと
「気になることがあれば遠慮なく言ってください。録音なしでも会議は進められます」——ここまで伝えて、はじめて同意です。嫌がる方がいれば、録音しない(その日はメモに戻る)。それも大事なルールです。
ステップ2:サービスの設定を、先に確認する
使い始める前に、サービス側の設定・説明ページで次を確認します。
- 録音・文字起こしデータの保存期間(サービスによっては、消さない限り残り続けます)
- 削除のしくみ——「削除」がゴミ箱への移動なのか、完全な削除なのか。完全に消す方法と、消す操作ができる権限は誰にあるか
- 入力したデータがAIの学習に使われるか(設定で止められるか)
- 職場のアカウントで、誰がデータを見られるか
分からない項目があれば、そのまま職場の責任者に相談を。「確認してから使う」が、この道具との正しい付き合い方です。
ステップ3:文字起こしは「下書き」。確認して、音声は消す
会議が終わったら、文字起こしを、その日の記録の下書きとして使います。
- 決まったこと・日付・数字は、自分の目で確認(文字起こしは聞き間違いをします)
- 記録が完成したら、録音データと文字起こしの元データを、決めたタイミングで削除します。ゴミ箱に移しただけでは残っていることがあります。ステップ2で確認した方法に従い、削除権限を持つ人が完全削除を行い、消えたことまで確認します
- ひとつ注意。文字起こしの全文を、別のAIに入れて要約させたくなりますが、ここで一度停止。文字になっても、会議の発言には個人情報がたくさん含まれています。別のAIサービスへの再入力は、それ自体に職場の承認と、入力してよい内容のルールが別途必要です。
ほー先輩:「文字になったから、もう大丈夫」やないんよ。声が文字に変わっただけで、中身は同じや。録音データは、消すまでが仕事やで。
5. 完成例
実際の流れは、こんなふうになります。(架空の事業所の例です)
会議の前(承認と同意)
職場に確認したこと:
・月例の職員会議で、文字起こしサービスの利用OK(職場アカウント)
・保存は職場の共有フォルダのみ/記録の完成後、音声と元データは完全削除
(完全削除の操作は管理者が行う、と確認済み)
会議冒頭の伝え方:
「記録づくりのために録音します。録音は外部の文字起こしサービスに
送って文字にします。見るのは記録係と責任者だけで、記録ができたら
音声も文字データも消します。気になることがあれば遠慮なく——
録音なしでも進められます。よろしいですか?」→ 全員OK
会議のあと(下書き→確認→削除)
1. 文字起こしを、記録の下書きにする
2. 決まったこと・日付・担当を、自分の目で確認する
3. 完成した記録を、決められた場所に保存する
4. 録音データと文字起こしの元データを完全削除し、削除済みを確認する(済んだらチェック✓)
記録係がメモに追われず、会議に参加しやすくなります。そして、録音の「入口(同意)」と「出口(削除)」が先に決まっていると、参加する人の不安を減らしやすくなります。
6. 使う前に確認したいこと
導入すれば、メモを取るのに必死だった時間が、話し合いに参加する時間になりやすい——それがこの道具に期待できることです。ただし、効き目の土台は道具ではなく、先に決めた3つのルールです。同意の伝え方が決まっているから、参加する人が安心しやすい。消すところまで決まっているから、データが溜まり続ける心配を減らせる。道具は、その上に乗るだけです。
使い始める前の確認を、もう一度だけ。時間の上限と料金プラン(無料プランは1回3分まで)。削除のしくみと権限(ゴミ箱と完全削除は別)。そして職場の承認。どれかが曖昧なままなら、今日は使わずに、まず確認からです。
それから、録音がそぐわない会議は、録音しないままでいい。個人の話が中心になる場面では、手書きメモから議事録を作るやり方や、走り書きを申し送りに整えるやり方が、いまも現役です。録音しない、という選択肢を持ったままでいること。それも安全の一部です。
7. 今日できたこと
今日できたことを、言葉にしておきますね。
- 録音の前にそろえる3つ(参加者の同意・職場の承認・消すルール)が分かった。
- サービス側で確認する点(保存期間・完全削除と権限・学習利用・閲覧範囲)が分かった。
- 文字起こしは下書きとして人が確認し、音声は決めたタイミングで完全に消す、という流れが分かった。
この3つがそろっていれば、録音と文字起こしは、記録係の強い味方になります。
8. ほー先輩の一言
ほー先輩:便利な道具ほど、使い始める前のひと手間が値打ちになるんや。同意をとる。職場で決める。消すまでやり切る。この3つができる人は、どんな新しい道具が来ても、安全に使いこなせる人やで。今日もていねいに進めたな。えらいで。
やさしいAI仕事術