1. 今日の相談
「異動が決まって、引き継ぎ書を作ることになりました。改めて考えると、私しかやり方を知らない業務が山ほどあるんです。月末の請求まわり、業者さんへの連絡、年に一度の届け出…。全部頭の中にはあるのに、いざ書こうとすると、どこから手をつけていいか分からなくて。抜けがあったら、残る人に迷惑がかかるし」
引き継ぎ書がつらいのは、文章力の問題ではありません。頭の中の業務は「思い出す順」でしか出てこないのに、引き継ぎ書は「次の人が使う順」で並んでいる必要がある——この変換が大変なのです。しかも日々の業務をこなしながら作るので、時間もない。
今日は、AIに棚卸しの観点リストを作ってもらい、頭の中の業務を効率よく吸い出します。
2. 大丈夫です
ほー先輩:大丈夫やで。引き継ぎ書は一気に書くもんやのうて、枠を作ってから埋めるもんや。枠作りはAIが得意。ただし今日は、これまでで一番きっぱりした約束がひとつある。ユーザー名・メールアドレス・パスワード・暗証番号・APIキー・秘密の質問・復旧コード——このたぐいは、AIにも、引き継ぎ書にも、絶対に書きません。物理鍵や入退室の情報もAI工程の外です。
線引きを最初に、はっきりと。
- 認証情報は値も識別情報も書かず、承認された保管場所だけを書く。アカウントの引き渡しそのものは、職場のITルール・管理者の手順で行います。物理鍵や入退室情報もAIには渡さず、職場で承認された管理手順に従います
- 利用者・子どもの個別の情報は、引き継ぎ書に書かない。それらは支援記録や台帳など、職場の正式な記録の中にあるべき情報です。引き継ぎ書に書くのは「その記録がどこにあるか・どう使うか」まで
- 担当者・施設・取引先・共有フォルダ・内部システムは、AIへ渡す前に「担当A・施設B・取引先C・共有フォルダD・システムE」のように記号化します。正確な情報へ戻すのは、AIの画面ではなく、職場で承認された引き継ぎ書へ移すときだけです
3. 今日使うAI・道具
今日使うのは1つだけです。
- ChatGPT(無料で始められます) … 業務棚卸しの観点リストと、書き出したメモの整理を手伝ってもらいます。認証情報・入退室情報・利用者情報・実名・実際の施設名や取引先名などは入力しません。
職場で使ってよいか(承認された環境か)の確認も、いつもどおり。
4. 実際にやってみる
ステップ1:観点リストを頼む(業務の中身はまだ渡さない)
退職・異動にともなう「業務引き継ぎ書」を作ります。まず、業務を洗い出すための観点リストを作ってください。 ①「毎日」「毎週」「毎月」「季節・年次」「不定期・トラブル時」の周期で分けてください。 ②それぞれに「忘れやすい業務の例」(例:月末だけの処理、年1回の更新、特定の人にしか来ない連絡)を一般的な例として添えてください。 ③「備品」「承認済み手順の保管場所」「社外とのやりとり」の観点も加えてください。物理鍵・入退室情報は対象に含めないでください。 ④ユーザー名・メールアドレス・パスワード・APIキー・秘密の質問・復旧コードなどの認証情報は対象に含めず、承認された保管場所だけを書く前提にしてください。
ステップ2:観点を見ながら、自分の業務を書き出す
返ってきた観点リストを片手に、思いつくまま書き出します。この段階は順番も粒度もバラバラで構いません。
・毎月:月末の請求データまとめ(25日ごろから)
・毎週:金曜に取引先Cへ発注メール
・年1:消防設備の点検立ち会い(秋ごろ)
・不定期:備品の故障→保守窓口への連絡方法は要確認
・データ:請求のファイルは共有フォルダD内
ステップ3:メモの整理をAIに頼み、最後は後任と読み合わせ
書き出した業務メモを渡します。「次の人が使う順」に整理してください。 ①「定例」「季節・年次」「進行中」「連絡先」の枠へ並べ直してください。 ②責任者や期限を作らず、私のメモにない手順・連絡先・判断を推測で足さないでください。分からない部分は「(要確認)」と残してください。 ③文書の最後に「後任者との読み合わせで確認した日:__」の欄を作ってください。
【業務メモ】(ここに貼る)
- AIが推測で手順を足していないか確認します。「(要確認)」が残った箇所こそ、あなたが埋めるべき本命です
- 完成した引き継ぎ書は、後任の方との読み合わせで仕上げます。読み合わせで出た質問が、そのまま「書き漏れリスト」です
- 保管場所と閲覧範囲(誰が見てよいか)は、職場に確認してから決めます
5. 完成例
架空の例で見てみましょう。整理後はこんな形になります。
アフター(ChatGPTが整理した引き継ぎ書・抜粋)
■ 毎月の業務
【月末の請求まとめ】
・いつ:25日ごろ開始、月末締め
・何を:当月の請求データをまとめて確認に回す
・どうやって:共有フォルダD内のファイルを使用
・関係先:(要確認:誰に確認を依頼し、どこへ提出するか)
■ 不定期の業務
【コピー機の故障対応】
・保守窓口への連絡方法:(要確認)
・伝えること:(要確認:元のメモに記載なし)
後任者との読み合わせで確認した日:____
認証情報や入退室情報はどこにも書かれていません。元のメモにない内容も「要確認」のまま残り、AIが責任者や手順を作っていない形になっています。
6. 使う前に確認したいこと
この使い方の値打ちは、引き継ぎ書づくりが「白紙とにらめっこ」から「枠を埋める作業」に変わることです。観点リストがあると、月末業務や年1回の届け出のような忘れやすい業務が先に網にかかります。
守る線を最後にもう一度。ユーザー名・メールアドレス・パスワード・APIキー・秘密の質問・復旧コード、物理鍵・入退室情報はAI工程の外に置く。利用者の個別情報は正式な記録の側に。施設名・取引先名・共有フォルダ名・内部システム名は記号化し、AIに手順・責任者・期限を推測で埋めさせない。そして引き継ぎ書の完成は、書き終わったときではなく、後任の方と読み合わせたときです。
行事の担当を引き継ぐなら行事の引き継ぎメモ、個々の作業のやり方を残すなら手順書のまとめ方が、この引き継ぎ書の「添付資料」としてそのまま使えます。
7. 今日できたこと
- 引き継ぎ書を「枠を作ってから埋める」手順に変えて、書き始められた。
- 認証・入退室情報はAI工程の外・利用者情報は正式記録の側、という一番大事な線を引けた。
- 「(要確認)」と読み合わせで、抜けもれを仕組みで拾えるようになった。
残る人にも、次に来る人にも、あなたの仕事がちゃんと届きます。
8. ほー先輩の一言
ほー先輩:引き継ぎ書はな、去っていく人が残せる、いちばん実のある置き土産や。「私しか知らん」を「誰でも分かる」に変えるんは、寂しさもあるけどな——それはあなたの仕事が、それだけ職場を支えとった証拠やで。最後まで、ええ仕事や。
やさしいAI仕事術